たげりの短冊

コメント歓迎

2023年に読んで良かった本

アンナ・バーンズ『ミルクマン』
主人公を含め具体的な名前がある登場人物はいないけれど、全員がキャラ立ちしててちゃんと読めてしまう大長編。NetflixにあるDerry Girlsが好きな人には特におすすめ。

横溝正史八つ墓村
頭にナショナル製の懐中電灯2本でおなじみの作品だが、その本人は物語の開始時点でとっくに死んでいる。読んでいるとその古さが目に付くこともあるけれど、今でいう異世界転生モノのように読むとすごく面白い。

有吉佐和子『非色』
日本では皆同じ「米兵」だったが、アメリカに渡るとありありと見えてくる人種に基づく階級の差。60年代に発表されたものだけれど、今読んでもすごくパワーのある作品。

林芙美子『放浪記』
正直に言うと、まだ読み終えていない。NHKの100分de名著でこの作品を紹介されていた柚木麻子さんが「読み終えなくて良い」とおっしゃっていたのでそれで良いことにする。
普段私が思っていてもうまく言葉にならないようなことがちゃんと文字になって記されているので好き。

ヒトラーの忘れもの

『すべての見えない光』からルイス・ホフマン経由で観たのだが、思いがけず「2023年に観た映画ベスト」に滑り込んだ。

戦闘シーンは一切ない反戦映画としてとても良い作品だと思うけど、観ることに緊張を強いられるし、観ていることが辛かった。

冒頭に軍曹の前で少年兵たちが名乗らされるシーンがあり、急にそこで彼らの区別が付くようになるのがとても効果的だった。デンマーク人のラムスン軍曹にとって、目の前に居るのは子ども達ではあるけれど、彼らは祖国を占領していたドイツ兵でもあり、捕虜であり、海岸に埋め尽くされた地雷の撤去要員でもあるわけで、その矛盾が時々顔を出す作りになっていた。

少年兵たちの中で中心人物として描かれていたのが、ルイス・ホフマン演じるセバスチャンで、優しさではなく(信仰に基づく?)揺らがない善性で行動するタイプの登場人物だったように思う。口数は少ないけれど、軍曹に物事を伝える裁量とか場を支配する能力に長けていて、少年兵たちの背景はほぼ語られないけれど、なにかが伝わってくる感じが巧かった。

他に特に印象に残ったのはあの双子...

あのラストシーンが「そうあって欲しい」という何よりのフィクションだったのだろうと思った。最後に、サウンドトラックが良い映画でもあった。

戦争映画における女性や子どもの描写について調べたくなった。

邦題は完全に「ヒトラー/ナチスを付けてしまう病」案件。

U-NEXTで配信中(2023年11月29日-30日)

Netflix すべての見えない光

インスタでタイトルぐらいは知ってるよーっていう程度の作品が映像化されていたので観ることにした。原作は『シェル・コレクター』などのアンソニー・ドーアによる同名小説。全4話。

まず、主人公のマリーが盲目という設定で、視覚に障害のある俳優/子役がキャスティングされていた(IMDbにまともな情報がなかったのでWiki調べだけど)ことはとても珍しいなと思った。けれども、マリーが盲目ということ自体が「炎の海」という劇中に出てくる宝石の美しさ/価値/迷信に惑わされない理由、それだけの為の設定みたいな気がして気に入らない。

それに、第2次世界大戦末期のフランス人とドイツ人の話なのに、仏人役の俳優たちはマーク・ラファロなど知っている限りは英語圏出身の俳優たちだし、独人役にドイツ/オーストリア/スイス出身の俳優を使っておいて英語をしゃべらせるのはいい加減に止めたらいいのにと思う。

それでもなんだか、こんな時にとは言ってみるけれど、いつだって世界のどこかでは大量虐殺や戦争が起こっているのに、そこから縁遠い場所/経験することのない場所からの眼差しが反映されているというか、綺麗すぎる物語と言うべきなのか、結局何を観てもモヤる。

Netflix版『西部戦線異状なし』も観なきゃな...

Netflixで配信中(2023年11月19日-24日)